評価から考えるプロジェクト型学習(PBL)第1回 『評価とは、「隣に座り助言する」こと』

はじめに

 将来への見通しを立てることが難しい社会に応じるように、教育現場では「主体的・対話的で深い学び」を行うことが求められ、小中高に探究的な学びが広がりつつあります。そして、その手法の一つであるプロジェクト型学習(PBL)は、発表会を含めた複数回に渡る授業時間で、生徒たちが協力しあい、試行錯誤の中で成果物をつくり表現する学びです。

 しかし、既存のチョーク・アンド・トーク型の授業とは大きく異なるPBLにおいて、どのようにすれば生徒たちの学びの状況を理解することができるのか、どう彼らの学びの成果を評価すればよいのかが、先生が抱える最大の悩みと言っても過言ではないでしょう。

 本連載では、プロジェクト型学習に必要な要素と各地点において有効な評価手法を紹介します。また、先生が評価するときの悩みどころや、各評価手法の比較をしながら、どのようにすれば学習者中心のプロジェクト型学習を実現できるのか「評価」の観点から考えます。

評価ってなんだろう?

 みなさんは「評価」ということばを耳にすると、どんなことをイメージするでしょうか。人事評価、高評価・低評価、定期テスト。「評価」を専門家に何かを判断される/してもらうような意味合いで捉えられている方が多いのではないでしょうか。広辞苑 第七版(岩波書店)によれば、

ひょう-か【評価】

① 品物などの価格を定めること、また評定した価格。
② 善悪・美醜・優劣などの価値を判じ定めること。特に、高く価値を定めること。

と記されており、私たちは「評価」ということばを、ものに値段をつけたり、価値判断を行うという意味で使っているようです。教育の文脈で考えると、②の意味合いが強く、もしかすると「成績」と同義で使っていることがほとんどなのかもしれません。

 「評価」ということばは、英語では「アセスメント(Assessment)」ということばに対応します。「環境アセスメント」なんてことばを、もしかしたら小学校のときに習ったことを覚えている方もいらっしゃるかもしれませんね。

 アセスメント(Assess)の語源は、オックスフォード英語語源辞典(Oxford Dictionary of Word Origins)によると ”sit by”、日本語で言えば「となりに座る」という意味です。元をたどるとラテン語からはじまり、徴税官や裁判官の隣に座り判断をサポートすることを示す古フランス語を経て、現在の英語になりました。ゆえに、元々の意味は私たちが思うような「成績をつける」とは少し違い、むしろ判断のための手助けとなる「隣に座り助言する」ことがアセスメントであるといえます。

 さてそれでは、例えば「ベンチに生徒と座る」ことをイメージしてみましょう。そうすれば、教壇から「対峙する」生徒とは違った像が見えてくるはずです。あなたには、生徒の横顔と、生徒が見つめるその先を一緒に見ることができ、まさに生徒の判断を助けるために、助言する立場となりかわっているはずです。それは、生徒の「現状」を見極めて伝えると同時に、これからやってくる「未来」を共に見据えて、共に考えることともいえるでしょう。

 「評価」とは「隣に座り助言する」こと。「値踏み」などではなく、相手とどのような関係をつくり、相手にどのような眼差しを向けるかが、評価における重要なポイントであると「アセスメント」ということばが教えてくれるのです。

評価は何のためにするものか?

 やや前置きが長くなりましたが、評価の目的は「成績をつけるため」だけではないということをわかって頂けたのではないでしょうか。「隣に座り助言する」評価の目的は、どう学んでいくか判断をする生徒と、隣に座り助言する先生とでは異なるはずです。それでは、両者にとって役立つ評価の目的とはどのようなものでしょうか。

 1.生徒が自律的に学ぶ力をつける

 ひとつめの目的は「生徒が自律的に学ぶ力をつける」ことです。自律的学習者とは、自ら目標を立てて学ぶことのできる人のことを指します。そして、自ら目標を立てるには自分がどこまでできていて、どこからがまだできていないのかを見極める必要があります。しかし、「目で目は見えぬ」ということわざがあるほど、自らを客観的にみることは非常に難しい。それゆえに「隣に座り助言する」評価は、生徒が自ら学びの目標を立てる力をつけ自律的学習者となるために無くてはならないものです。

 2.先生が生徒の学びを個別最適化する

 そして、ふたつめの目的は「先生が生徒の学びを個別最適化する」ことです。学習の個別最適化とは、生徒一人ひとりの理解状況や能力、適正に合わせた学びを提案することです。しかし、定期テストなどの数少ない成績をつけるための評価から、日々変化し続ける生徒一人ひとりに応じて必要十分な学びを提案することは至難の業です。それゆえに「隣に座り助言する」評価は、生徒一人ひとりの現状を逐次見極めて難易度を調整する、学びの個別最適化に必要不可欠だといえるでしょう。

 

コンフォートゾーンモデルで考える評価の目的

 では、生徒が自ら学習の目標を定め、先生が必要十分な学びを提案するには、どんな考え方をすればよいのでしょうか。その鍵は、ブラウン(2008)によって整理された「コンフォートゾーンモデル」にあります。経験学習(Experiential Learning)や野外学習(Adventure Learning)の文脈で活動の「挑戦度合い」をモデル化したものがこの「コンフォートゾーンモデル」です。現在では、スポーツ心理学やコーチングなどで広く用いられるこのモデルは学習者と学習活動を結びつけるときに、考える基準となるフレームワークです。

(ブラウン (2008) のモデルをブリッジラーニングで翻案)

 左端のゾーンは「コンフォート(快適)ゾーン」。生徒が過去に経験したことのあることや、何度でも再現できる得意なことなど、ひとりで容易に完遂できるレベルの活動です。このレベルで生徒は簡単にこなすことができるので、他者に教えることもできるレベルであると同時に、このレベルの活動だけだと手持ち無沙汰になってしまう場合があります。

 そして対極に位置する、右端のゾーンは「パニック(混乱)ゾーン」。生徒にとって、能力や知識、想像できる範囲からかけ離れたレベルの活動です。文脈を大きく外れた内容や許容範囲を越えるたくさんのことをすることで、「どうすればよいかわからない」状態になってしまう、まさにパニックの状況に陥ってしまいます。余談ですが、教室で急に生徒が癇癪を起こしてしまったり、全く集中できず違うことをしてしまっている場合には、その時の活動がコンフォートゾーンかパニックゾーンのどちらかにあてはまる可能性が高いです。

 最後に、中央のコンフォートゾーンとパニックゾーンの間に挟まれた「ストレッチ(挑戦)ゾーン」。生徒が誰かと一緒であればできる、もしくは試行錯誤を繰り返してやっとできるようになるレベルの活動です。コンフォートゾーンから一歩出て、このストレッチゾーンへと生徒が挑戦するように支援することを、認知科学や学習科学では「足場かけ(Scaffolding)」とよびます。バークとウィンスラー(1995)は、どのような足場かけがよいのか、2つのポイントをあげています。

・適切な挑戦度合いになるように構造化された課題や学習環境を設定すること
・子どものニーズや能力に応じて大人がどのくらい介入するか調整すること

まさに、バークとウィンスラーが提唱する足場かけは、「隣に座り助言する」評価をした上で、生徒一人ひとりのストレッチゾーンに収まる学びを設定することだといえます。

まとめ

 今回は、「評価」とはどんなものなのか、そして「評価」は何を目的としてするものかを考えてまいりました。評価とは「隣に座り助言する」ことであり、学びの目標を立てるのは生徒自身であるということ。そして、生徒一人ひとりの状況を逐次見極めて、難しすぎず簡単すぎないストレッチゾーンの学びをつくる「足場かけ」をしていくことが学習者中心の学びには必要不可欠なことだとわかりました。

 次回は、「隣に座り助言する」評価では、具体的にどんなこと評価するのか、そしてどのような評価方法があるのかをご紹介いたします。

参考文献

Berk, L. E., and Winsler, A. (1995). Scaffolding children’s learning: Vygotsky and early childhood education. NAEYC Research into Practice Series. Volume 7. Washington, DC: National Association for the Education of Young Children.

Brown, M. (2008). Comfort zone: Model or metaphor?. Journal of Outdoor and Environmental Education, 12(1), 3-12.

連載:評価から考えるプロジェクト型学習(PBL)

投稿者: 山﨑 智仁

ブリッジラーニング運営メンバー | 一般社団法人 FutureEdu 理事 | 慶應義塾大学SFC研究所 上席所員 学びの研究と実践の両輪で走り続けるジェネレーター。2020年3月まで探究する学びを実践するマイクロスクール、特定非営利活動法人東京コミュニティスクールで初等部教員を務める。子どもたちと様々なテーマについて教科融合型で探究する学び「テーマ学習」を実践。また、学びのデジタル化やICTの学びのグランドデザイン、テクノロジーを活用した業務効率化を推進し、2019年8月にはGoogle for Education認定イノベーターの一人に選出された。 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程修了。修士(政策・メディア)

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