評価から考えるプロジェクト型学習(PBL)第3回『深い探究学習を支える形成的評価』

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 どのようにすれば学習者中心のプロジェクト型学習を実現できるか「評価」の観点から考える連載シリーズ『評価から考えるプロジェクト型学習(PBL)』。

 第2回では、生徒一人ひとりのストレッチ(挑戦)ゾーンについて生徒が意識・理解を深めることができる形成的評価と、形成的評価を上手く活用できたときの生徒の成長の具体例についてご紹介しました。

 今回と次回の2回にわたり、形成的評価を意識したプロジェクト型学習(PBL)や探究学習における授業設計のフレームワークや、形成的評価の活用方法ついてご紹介します。本日は、キャス・マードック氏ご自身が長年教鞭を取られた中で考案された探究サイクルモデルを活用した授業と形成的評価をみていきましょう。

探究サイクルモデル by キャス・マードック

 キャス・マードック氏は、オーストラリア出身の教育コンサルタントで、「The Power of Inquiry」など多数の著作のみならず、世界中で探究学習について講演やワークショップを実施されています。彼女の探究学習サイクルは、国際バカロレアの小学生向けのプログラム (Primary Years Program = PYP) でも採用されているそうです。

 マードック氏の提唱する探究サイクルは、大きく5つのステップに分かれています。各ステップを、マードック氏の説明に補足する形で紹介します。

Kath Murdock (2019) A MODEL FOR DESIGNING A JOURNEY OF INQUIRYをブリッジラーニングで日本語訳


ステップ1:関心を寄せる | Tune In

 マードック氏は、探究学習の最も大きな効果の一つとして生徒の知的好奇心の喚起を挙げています。深い学びに向かうためには、言われたことに無理やり従うのではなく、探究活動の大きな問いを理解し、生徒一人ひとりが提案された問いに関心を見いだせる事が大切です。

 この第一ステップでは、提案される大きな探究の問いに関して本人が既に知っている事(知識や経験など)を確認しながら、問いと自らの関連性を見出し、問いへの関心を醸成します。また、イベントや社会見学、動画の視聴など問いに関連する知識を広げる事で、関心を深めていきます。

 そして、子ども達の中でより深めていきたい問いや、その問いへのこたえ方を考えていきます。

ステップ2:探索する | Find Out(フィールドワークやリサーチなど)

 ステップ1であぶり出された問いに対して、様々なリソースを活用して情報を集めます。本やインターネットを使った調べ学習、有識者やユーザーへのインタビュー、観察、実験、アンケート、などから適切なリソースを取り入れます。

 集められた情報は、その価値を批判的に評価することが重要ですし、スケッチ、ノート、動画撮影、写真、思考チャートなど情報を活用しやすい形に整理しておくことも有用です。

ステップ3:情報に意味づけする| Sort Out

 分析、整理、比較、対比、選別する、分類するなどの活動を通じて、集められた情報に意味づけをします。振り返りながら、新しい気づきや考えを共有していきます。

 また、問いに何度も立ち戻り、より良い問いに進化させながら、必要に応じて新たな問いも加えていきます。ここまでの学びを通じた理解や提案の方向性が適切か振り返ることも大切です。

 このステップにおいて、生徒さんが問いについて最も理解できていることと、そうでない事を明らかにする事で、子ども達が学びあう事を通じ、探究活動の次のステップが見えてくることもあるそうです。

ステップ4:新たな視点で深める | Go Further

 新たに生まれた問いを活用して探究活動を広げ、深めます。子ども達の個別の関心に応じた探究活動を行うこともあります。そして、新たに学んだことを仲間と共有します。

ステップ5:振り返り行動につなげる | Reflect and Act

 学んだことを実社会や生活に応用したり、活用する方法など、探究学習の成果物や発表方法を考えます。その中で、大きな問いとの関連性を見出します。そしてここまでの学びのプロセスについての評価に加え、まだ答えられていない問いの有無を検討し、次のステップについて考えます。

 この探究サイクルでは、問いにこたえるための情報収集や分析をすることだけでなく、自らのモチベーションを駆動しながら自律的に学ぶ学習者に成長するための体験やスキルの習得も重視されています。マードック氏は5つのステップを通じて、リサーチスキル、協働力、コミュニケーション力、思考力、自律力といったスキルや態度が育まれる事を、探究サイクルで表現しています。


 もちろん実際の探究学習では、直線的にステップ1から5に進むわけではなく、ステップ2と3を行き来する、各ステップに重なり合いが出ることもあるでしょう。マードック氏は、この探究サイクルは順番通りにこなすレシピではなく、フレキシブルに活用する事を強調されています。図解されているとステップ通りに進めないといけない様に見えがちですが、ざっくりとした探究学習の活動の流れだと捉え、最初から単元をガチガチに作り込むのではなく状況に応じてある程度柔軟に進化させて行くことが大切です。

 この探究学習のサイクルにおいて子ども達が適切な難易度の問いに取り組んでいるか、また子ども達が自らの目標を管理したり、目標を達成するためにより主体的に学びに取り組む事を促進するツールとして形成的評価が活用できます。

 マードック氏が某小学校において4年生のエネルギーに関する授業(大きな問い:エネルギーは無限なのか?)を担任の先生と進められていた動画では、以下の様な形成的評価が取り入れられていました。

探究学習での実践例

事例1)ホットポテト(HotPotato)

 それぞれの紙に問いを書き、各グループでは問いにこたえを書いたのち、回答が見えない様に紙を折って次のグループに回す。全グループが書き終えたのち共有され、ディスカッションが行われる。

  • ある一定の時点での理解を振り返りながら、仲間からも学び、新たな意味を見出す活動ですね。生徒さん自身の理解を確認しながら新たな視点も獲得できる活動です。

事例2)問いへの理解度の確認や振り返り

 この授業では、大きな問いに対して、4つの生徒が考えた問い(エネルギーはどう機能するのか?なぜエネルギーは必要なのか?どの様なエネルギーの種類があるのか?エネルギーとはどういう意味なのか?)への理解度を振り返る時間がありました。これらの問いから発展して現在の理解の状況について説明がされた5枚ポスターが教室の異なる場所に掲示され、生徒は最も理解ができてないと思う場所に立ち、同じポスターの仲間で、何が理解できていないかを確認したり、最も理解に自信のあるポスターを選び、同じグループの仲間で、理解を確認し合うというアクティブな形成的評価の活動が行われていました。

事例3)今までの探究学習を通じて学んだスキルへのメタ認知と目標設定

 この授業は子ども達にとって4度目の探究学習だったそうで、過去3回を振り返り、どの様なスキルを身につけたかと言う話し合いがされてました。生徒からは、目標設定を行う力や、協働する力、話し方、SLANT (sit up, lean forward, act interested, nod occasionally, track the teacher (or speaker)、傾聴力、整理力といった意見が上がっていました。この様な話し合いを通じて、先生も生徒の状況についてより深い理解をすることができます。

 先生からは他にも誰もおいてきぼりにされない様に質問をすることや、名前を呼んであげることなど、子ども達から上がってきていないスキルについて追加の言及がなされていました。

 この様に学んだスキルへの理解を深めたのち、先生の提案で、言及されたスキルのうちそれぞれの生徒が何にフォーカスするのかを考える時間が設けられました。自律的な学習者になるためには必要な学びのプロセスですね。

事例4)学びかたについての振り返り

 最後に、学びかたについての振り返りの活動が行われました。グループ毎にカードの束が配布され、めくったカードに書かれているお題に、そのカードを引いた子どもがこたえるといった、ゲーム的な要素が含まれた振り返りの活動です。

 カードには「学びを邪魔したことは何かありましたか?」「わかっていると自信のあることを一つあげてください。なぜそう思っているのでしょうか?」「今日の授業についてどう感じてますか?」「もっと気になったことはありますか?」と言った問いが書かれています。グループで振り返りを行うことで、この先の新たな探究の問いを見出すことにもつながりそうですね。

事例5)今日設定した目標への到達度を表明する

 授業の最初に設定した目標への到達度を全員が手で1から5の形で表明する形で授業が終了しました。自らが設定した目標の到達度合いを授業内に確認することで、生徒が次の授業でより主体的に意識して行動できることに繋がる形成的評価です。


 一回の授業でも上記に挙げたような5つの形成的評価を交えることができるのです。よりリアルタイムに生徒一人一人が自分の学びの状態に気づき、目標を設定して自律的に動き、仲間から学び合うという事が毎回の授業で習慣化されていくと、時々スナップショット的に実施される定期的な評価よりも成長に繋がることが感じていただけたのではないでしょうか?

 本記事で紹介されて頂いた授業動画は、こちらの YouTube (英語字幕のみ)でご覧いただけます。

参考文献・出典

Learning through Inquiry with Kath Murdoch, Sherryl Joseph
https://youtu.be/ZNLOwXVGn2M

Exploring the cycle of inquiry, Kath Murdoch
https://www.kathmurdoch.com.au/new-page-2-1

Updated Diagram – Designing a Journey of Inquiry 2019
https://www.kathmurdoch.com.au/new-page-2-1

連載:評価から考えるプロジェクト型学習(PBL)

投稿者: 竹村 詠美

一般社団法人 FutureEdu 代表理事、一般社団法人 Learn by Creation 代表理事、Most Likely to Succeed 日本アンバサダー、Peatix.com 共同創業者 マッキンゼー米国本社や、日本のアマゾンやディズニーなど外資系7社を経て、2011年にPeatix.com を共同創業。2016年以来グローバルなビジネス経験を生かした教育活動に取り組み、教育ドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed」上映・対話会の普及、2日間に2500名が集った「創る」から学ぶ未来を考える祭典、「Learn by Creation」主催や研修も行う。『新エリート教育 ~ 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』(日本経済新聞出版)を7月23日に上梓。 クリエイティブリーダーを育むための、学習者中心の学びやホール・チャイルドを育む環境をテーマに活動中。総務省情報通信審議会委員など公職も務める。経済産業省の未来の教室での研修採択実績。講演や執筆も多数。 慶應義塾大学経済学部卒 | ペンシルバニア大学ウォートンビジネススクール修士卒|ペンシルバニア大学国際ビジネス修士卒

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