評価から考えるプロジェクト型学習(PBL)第5回 『実践事例:「数字で見る六義園の変化」プロジェクト』

どのようにすれば学習者中心のプロジェクト型学習を実現できるか「評価」の観点から考える連載シリーズ『評価から考えるプロジェクト型学習(PBL)』。

第3回・第4回と国際バカロレアで教科融合の学びを実践するために活用されているフレームワーク「キャス・マードックの探究サイクルモデル」や、米国ハイ・テック・ハイで実施されているPBLのモデルについてご紹介いたしました。

第5回は、実際に聖学院中学校1年生数学科をご担当されている佐藤龍彦先生、理科をご担当されている佐藤充恵先生とブリッジラーニングのコラボレーションによって実現した「数字で見る六義園の変化」プロジェクトをご紹介致します。

今回は、PBLの実例をご紹介しつつ、学びの流れに沿ってどのようなを評価ができるのか考えてまいります。

実践事例:「数字で見る六義園の変化」プロジェクト
@聖学院中学校 1年生 数学科・理科

東京都北区にある私立中高一貫男子校、聖学院中学校の1年生5クラス合計177名の生徒さんを対象に、2ヶ月間数学科と理科の合計10コマを教科の枠を超えたコラボレーションで実践された「数字で見る六義園の変化」のプロセスをご紹介致します。

学校紹介:聖学院中学校高等学校

聖学院中学校高等学校は「Only One for Others(他者のために生きる個人)」の理念を中心にして、キリスト教精神に基づく人間教育・学習指導・体験学習を実践し、グローバルで探究的な学習を実践するグローバルイノベーションクラス(GIC)が2021年度より高等学校で開設され、最近では思考力を重視した特徴的な入試が話題となり、明治から続く伝統校でありながらも探究・PBL型教育やグローバル教育に力を入れている先駆的な学校です。
公式ウェブサイトはこちら:https://www.seigakuin.ed.jp/

担当された先生

佐藤 充恵(さとう みつえ)先生
聖学院中学校高等学校 教育企画部長

プロフィール

前任校 三田国際学園中学校高等学校(2013-2020)で理科主任を5年間務め、ICTを活用しながら生徒たちが自ら考えたくなる(思考の扉を開く)授業を推進。
現任校では2021年度よりグローバルイノベーションクラスを立ち上げ、モノづくりコトづくりを通して世界貢献できる人材の育成を目指す。「人を幸せにできる人ってどんな人だろう?」という問いに始まり、STEAMやリベラルアーツの授業を通して生徒達と一緒に探究をしている。校内研修ではICEモデルを校内に普及しながら、それぞれの教科独自の視点と教科を横断した学びの構築に挑戦中。
日頃心がけているのは、思いついたことを口にすること。もやもやも大切な気づきであること。
ブリッジラーニング第一期修了生・第二期サポーター

佐藤 龍彦(さとう たつひこ)先生
聖学院中学校高等学校 数学科主任

プロフィール

早稲田大学教育学部数学科を卒業後、聖学院中学校高等学校に就任。数学が嫌いな生徒があまりに多いことに驚く。教師が主体となって行う授業では、数学を学ぼうと思わせることが難しいと思い、生徒が主体となって行われる授業の実践を目指す。そこから学校の勧めもあって、ブリッジラーニングを受講する。日々、生徒が主体となって学ぶ授業とはどういう授業なのかを考え悩みながら、「学習者中心の学び」に挑戦している。
ブリッジラーニング第二期修了生

プロジェクトの概要

「数字で見る六義園の変化」プロジェクトは、中学校1年生数学の「比例と反比例」の単元と、中学校1年生理科の「植物の世界」と「大地のつくりと変化」において実践された教科横断的なプロジェクト型学習(PBL)です。学びが始まってからリフレクションまで2ヶ月間のプロジェクトで、各教科の時間をうまくやりくりしながら合計10コマを捻出し、2回の現地フィールドワークやICTを活用したワーク、そしてクラスでのプレゼンテーションと六義園の方からフィードバックをいただくまでを実施することができました。

プロジェクトの計画段階では今回担当された佐藤龍彦先生が無類の「庭園好き」であり、かつ学校の近隣にありながら行ったことのなかった六義園を先生方で事前にフィールドワークしたところからはじまりました。フィールドワークで感じたことや得たことと、教科の単元をつなぎ合わせた形でセントラルアイデアの「変化は生の中にある」を先生方と練り上げ全体の流れを計画しました。

プロジェクトの全体の流れ

1. ローンチ

今回のプロジェクトの概要と「変化は生の中にある」というセントラルアイデアを紹介し、
まずは、「変化するもの・しないもの」について既有知識を考え出してみるワークをしました。

2. フィールドワーク①

学校の近隣にある都立庭園・特別名勝の六義園を訪れ、1ヶ月後には変化していそうなものと変化していなさそうなものを探し歩き、タブレット端末で写真に収めるフィールドワークをしました。

3. 数字化して変化を予測する

1回目のフィールドワークで撮影した写真から変化しそうなもの、変化しなさそうなものを、数字で表し、数学の「比例・反比例」と「関数」の知識を活用して1ヶ月間の変化を予測しました。

4. フィールドワーク②

ちょうど前回のフィールドワークから1ヶ月後、紅葉も最盛期となった六義園を訪れ、前回撮影した変化しそうなもの、変化しなさそうなものがどうなったかを見るために2回目のフィールドワークをしました。

5. 変化の数字化とプレゼンテーション

六義園で写真に収めたビフォー・アフターの2枚を比較して「変化」を数字で表し、スライドにしてクラスでプレゼンテーションをしました。

6. フィードバックとリフレクション

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六義園サービスセンター 照井進介 所長に今回のプレゼンテーション動画を見ていただき、「変化」の観点から見た六義園の紹介と、生徒の発表内容へフィードバックをしていただきました。

上記の学びを実践されたお二人の先生や、見守られていた先生からのコメントを頂きましたので、ご紹介させて下さい。

佐藤充恵先生からのコメント:

「好きを啓くには?」という学年の問いに向け、教科の枠を超えて、教科書のお手本通りではない「人それぞれ違う結果(気づき)を得られるような学習体験」をデザインできたらどんなに素敵だろう、という想いからスタートした企画です。「変化」という概念を共通言語に、仲間と一緒にプログラムを考える時間は本当に楽しかったです。六義園の照井さんから「今までたくさんの講演を近隣の学校に向けて行ってきましたが、このように数字に着目しながら六義園について考えたことはなかったので、とても新鮮でした!」というお言葉をいただき、新しい見方を発見しよう!という目的を少しは達成できたのだと感じました。生徒たちがワクワクして自ら教科の境界を越えたくなる状況を作りだす挑戦を、これからも続けたいと思います。

佐藤龍彦先生からのコメント:

今回のこの学習の実施においては、感染症の影響でなかなか時間が取れない中で、興味を持って取り組んでくれた生徒がたくさんいてくれたことに感謝しています。六義園の変化を数字にすることは簡単ではなかったですが、取り組みの中で気づいたことや、感じたことを素直に表現していく姿勢が見て取れたのがとても大きな収穫でした。カリキュラムの中で学習していくことと、プロジェクト型学習の両立ができると、より大きな関心を持って学習に取り組んでくれるということを今回学ぶことができましたので、今後も継続して生徒の関心をかき立てるような取り組みを実施していきたいと思います。

今回の実践を見守られていた学年主任の藤本俊先生からのコメント:

大きな行事が終わった後で、彼らの興味関心からスタートするようなイベントがない時期に、このような教科を横断しながらの探究活動が入ってくれたのは学年として、とても助かりました。


プロジェクト型学習のプロセス

それでは、事例をご覧いただいた後に、プロジェクト型学習(PBL)の構造と評価について考えてまいりましょう。

大まかにプロジェクト型学習は

1.ローンチ:学びのはじまり

2.トライアル・アンド・エラー:試行錯誤や創意工夫のプロセス

3.エキシビションとリフレクション:展示会や発表会と振り返り

の三段階から成り立っています。そして、学習のアクティビティと表裏一体となって評価を行うためのタイミングがやってきます。
それぞれの段階でどのような評価を行うことができるのか、見ていきましょう。

1.診断的評価(Diagnostic Assessment)

学習者の事前体験・既有知識を知るための評価を学びが始まると同時に行います。予め学習者の状態を知っておくことで、どのようなチャレンジを学習者に設定し、どのように支援していくのかを考えるための手がかりになります。

例えば、事前テストやグラフィックオーガナイザーをつかったブレインストーミング、テーマに付随する内容についての対話などで、事前体験や既有知識を起動させ、学びへのイメージをふくらませられるように設計します。

2.形成的評価(Formative Assessment)

形成的評価は、学習者が学びの中で試行錯誤するときに、その時々の状況を評価することす。しかし、形成的評価は単純にプロセス中に行う評価を表すものではありません。「形成的」とは、学習者とそれとともに歩む教師とで学びを「形づくる」ための評価です。「プロセス途中の評価」との大きな違いは、「形成的評価の後に改善できる学びの機会がある」点です。つまり、形成的評価によって学習者がフィードバックを得て途中制作物や学習を改善するとともに、教師は設計した学びへのフィードバックとして受け止め、内容や方向性を修正するために活用する手がかりを得ることができるのです。

例えば、出口チケットやジャーナル、ギャラリーウォークなど、プロセス中の状況を把握しながらもそのフィードバックを生かして改善するチャンスがあるように設計します。

3.総括的評価(Summative Assessment)

総括的評価は、プロジェクトの最終段階でアウトプット(制作物や成果物)を、展示会や発表会の中で、プロジェクトの受け取り手として設定した人に見せることでフィードバックを得ることです。

例えば、聴衆による投票や感想・評価シートを活用して学びを総括し、学習者のアウトプット(制作物や成果物)に客観的なフィードバックがあるように設計します。また、最終レポートなども総括的評価に値しますが、「どんな人からフィードバックをもらいたいか」という点に注意する必要があります。


次回第6回は、プロジェクト『数字で見る六義園の変化』の最初のワークである「1.ローンチ」のなかで、生徒の事前体験・既有知識を探るために実施した診断的評価の事例をご紹介致します。

連載:評価から考えるプロジェクト型学習(PBL)

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投稿者: 山﨑 智仁

ブリッジラーニング主宰 | 一般社団法人 FutureEdu 理事 | 慶應義塾大学SFC研究所 上席所員 学びの研究と実践の両輪で走り続けるジェネレーター。2020年3月まで探究する学びを実践するマイクロスクール、特定非営利活動法人東京コミュニティスクールで初等部教員を務める。子どもたちと様々なテーマについて教科融合型で探究する学び「テーマ学習」を実践。また、学びのデジタル化やICTの学びのグランドデザイン、Google Classroomを活用した探究型学習のデジタル化及びテクノロジーを活用した業務効率化を推進し、2019年8月にはGoogle for Education認定イノベーターの一人に選出された。 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程修了。修士(政策・メディア)

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