気づく から 日常の一部 までの谷を越える
ブリッジラーニングの何が私に変化をもたらしたのか
甲南小学校 藤原かおり先生インタビュー 第2弾
ブリッジラーニングに出会った時には既に、学習者中心の学び実践のためには自身が変わらなければ、と気づかれていた藤原先生。ブリッジラーニングを通して、「こうしたい」と気付いている段階から、そう実践できる段階へと変化したことが、大きなターニングポイントになったのだとか。 インタビュー第2弾では、関係性がうまくいっていなかった児童への声かけの変化や、ブリッジラーニングで学んだ「学習者の横にそっと座って同じ方向を見る」を自分のものにされたある児童との出来事、そしてそれを支えたブリッジラーニングのプログラムについて語っていただきました。 先生の在り方が変わると、児童も変わる様子が鮮明に伝わるお話です。 |
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甲南小学校 藤原かおり先生インタビュー 第1弾
〜こちらも!〜
卒業生インタビュー第一弾:仲間と共に学ぶことはなぜ教員を成長させるのか? 聖学院中学校高等学校 佐藤充恵先生インタビュー(リンク)

藤原 かおり
甲南小学校 教諭(音楽専科)
大学時代に音楽療法を専攻し、音楽を通して人と関わる仕事がしたいと考える。
教育実習を体験し、絶対に行きたくないと思っていた教職の道へ。講師として働きながら、小学校免許を取り、現任校で教諭として働き始める。その後、音楽専科となり、子どものやる気を誘う学習形態と場を工夫をすることを研究するため、大学院で『小学校音楽科における和太鼓指導の新しい展開〜和太鼓を用いた創作活動を中心として〜』を研究。
現在も「学校でしかできない音楽の授業」を模索しながら、対話を軸として、子どものやる気を引き出す指導を研究中。
※ (ひ)=聞き手 日出間真理子
仲が悪かった女の子と。こっちやなって気づかせてもらった
去年の2月に反抗的で全身で私に敵対心を露わにする5年生の女の子がいたんです。その子は、「音楽無理〜」と言ったり、iPadを開いて授業中ずっと「音楽、音楽、ミュージック」って書いたりしているような子で。これまでなら「iPadで遊んでる場合じゃないでしょ。」って怖い顔をして注意していたと思うんですけど、ブリッジラーニングに参加した後は、字が上手だねとか、音楽ってそうやって書くと可愛いね、という声かけに変わりました。
(ひ)かおさんの中でどんな変化があったのですか?
多分ステップ2で気づいたんです。これ(ブリッジラーニングジャーナル)に気付きをめっちゃ書いていったんですよね。そしたら、自分でストレス作ってるなとか、これ悩まなくていいこと、これは解決できることみたいなのがもっと単純なんだなって分かってきて。
実はその子の人格をどうにかせねばという考えがあったんだと思います。おこがましいですよね、、、。私ががんばる所を間違っていたんだなって気付いて、「こうせなあかん!」みたいなのはもう捨てようと思いました。多分その気持ちが子どもに伝わったんだと思います。今何にもない時に音楽室に遊びに来てるんですよ、その子。
(ひ)へー!仲良しじゃないですか。
いや別に喋るわけじゃないんですよ笑。「テスト勉強しに来たー」って言うから、後ろでは木琴やらドラムセットやら叩いている子らがいる中で「うるさくない?大丈夫?」って言ってるんですけど。寝っ転がってiPadで勉強してて、他の子に「そんなん姿勢悪いやん!」とか言われてて。「いやでも、○○ちゃんなりに勉強してんねんから、偉い!」って私が言って、そしたら本人「そうだそうだ!」って笑。
なんかこっちの関わりの方が私もその子にもいいかもなって、気づかせてもらいました。
(ひ)すごい変化。
いやそうなんですよ!ブリッジラーニングに参加して、すごい色んな考え方や見方を変えていただいて。私ってめっちゃ素直やん!スポンジの吸収力かもと思ってます笑。
子どもがしんどいのも分かった。自分も本当はしんどかった
(ひ) 先生って子どものことをすごく一生懸命考えてますよね。そして子どものためにとするほど、視点がずれていって、苦しいループにはまっちゃうことってあるのでしょうか?
そうですね。私も最近共に幸せになるっていうのをよく考えています。
私、休み時間とかがほぼなくて。お茶飲む暇もなくて。子どもが来てくれたら時間作ってあげたいのはもちろん、音楽は子ども一人一人やってきた経験が全然違うから、音源を作ったりとか、楽譜を演奏しやすいように簡単に編曲したりとか、やることは無限にあります。
私は小学校の音楽の教員としてやっぱり、学校でしかできない音楽を一番大事にしたいと思っています。そしてこんな私に任せていただいたので、保護者の方や学校の期待に応えたい、できる限り頑張りたい。だから子どもがこれをやりたいなって言ったら、どうやったらできるかなってできる限り考えます。
(ひ) 音楽会でデッキブラシや椅子を使って演奏していたの、感動しました!
いやいや。あたたかいお言葉ありがとうございます。子どもたちの発想が素晴らしく、私は「いいやん!」しか言ってないので何もしてないのと同じです。笑 でも、目指す楽的技能の完成度を高く設定してしまっていたら、子どもたちはしんどくなってしまっていたのかなと。そして、手立てもいっぱい必要になると思います。それをするのもいい先生の役割の1つだという事は今も思っているんですけど、同時に共に幸せにっていう視点は前はなかったんだなって。
私、以前はもっと怖い先生だったんです。卒業生が学校に遊びに来ると二十歳の男の子が、怖くて藤原先生と喋れないなんて言うんですよ。
(ひ) えー!信じられない。こんなに話しやすいのに!
管理職や保護者の期待に応えたいあまりに、「〜しなさい」とか「〜するべき」って言っていたと思います。怖い先生でいた方が統制が取りやすいから、楽な部分もあるんです。
でもそれによってやっぱり子どもたちがすごいしんどい思いをしていて。私自身も、キャラじゃないのにスッゴイ怖い先生を演じていました。
でも最近はもう、子どもたちにも同僚にもばれていますね。よく、うわー!ってプリントの山を落として「あぁ落ちてるなぁ〜誰か優しい人いないかなぁ〜」と言ってると「はいはい、しょうがないですねぇ」と誰かが助けに来てくれます。
(ひ)漫画のヒロインみたいですね!
笑。そんなことはないですが!ただ、頼りない私を助けてくれる優しい子どもたちや同僚が周りにいてくれているんだと思います。それに、「(学習者の)横にそっと座って同じ方向を見る」っていうブリッジラーニングで大切にされている事が、自分にすごく合っているのだと思います。以前の私は無理していたんだなって気づかせてもらいました。日々悩んでますし落ち込んでますけど、今はこっちの方が好きかなって。
ターニングポイント。「こうしたい」と気付いている段階から、そう実践できる段階へ
(ひ)人間の変化って段階的で、こうした方がいいと気づいてる状態と、それができるようになっている状態って、かなり距離があると思います。後者の状態にたどり着けなくて四苦八苦している方は多いですよね。私の目から見てかおさんは後者にたどり着かれていると思うのですが、何か大きな変化のきっかけはあったのでしょうか?
子どもに共感的にインタビューする宿題、あれを通して起こったことが、大きなターニングポイントになりました。話し方のガイドラインがあったじゃないですか。あれをやってみて、横に座って同じ方向を見るように寄り添って話すことの大事さに気づいて。
その子は当時「先生なんか手伝うことないー?」と時々言ってくれて、クラスで認められたい思いがあるのかな?と直感的に感じていたこともあって、この機会に話しかけてみよう!とトライしました。
朝呼び出して2人で寒空の中、こう横に座って話しました。最初はすっごい気まずそうにしていたんです。でもインタビュー後、明るくなった気がします。クラス替えがあって彼も色々大変なことがあるんだけど、今も一番に講堂に来てみんなの為に何かしてくれています。
(ひ)それはその、かおさんと話してそういう風になったのですか?
っていう風に、お母さんとたまたまお電話で話した時に仰っていました。今までは朝も起きられなかったのに、音楽の活動を通して、宿題もするようになったり、学級委員に立候補したり、前向きになったと教えていただきました。彼はずっと、僕は何にも一番になれないって言っていたらしくて。僕にもできることがあるんだって、自信になっているようです。
ちょっとした言葉かけや接し方によって、これだけ小学生は変わるんだって分かりました。
その前の学年までお友だちとの関係がうまくいっていない子だったんです。認められていない感じで。音楽的なものに気付ける力はあったから褒めてるつもりではあったんでけど、僕はできないってずっと思っていたらしくて。今まで大事だなとは思っていたけれど、寄り添う事は出来ているようで出来てなかったんだと思います。
(ひ)かおさんの言葉がけはどんなふうに変わったんですか?
「ありがとう」とかは結構言っているつもりだったんですけど、本当に褒めたいときはそばに行って伝えるようになりました。
あと、子ども一人一人とのノートのやりとりを始めたんです。手を上げて話すのが苦手な子もいるから、すぐに言えない子は、ノートに感想やここは分からなかったってメモして次の授業で出してくれたらいいよって言っていて。そこにメッセージで返事をしています。私は音楽専科で担任ではないので、毎日会うわけじゃないですか。このノートでのやり取りが私と1人1人との関係をさらに繋げられたらなと思っています。
共感的インタビューのガイドラインを元に実際にやってみたことが、今度はちょっとこういうのもしてみよう、こういうのはどうだろうと考えるきっかけになったので、たぶん自分にとって大きな経験だったんです。
(ひ)個人と個人として児童さんと関係を結んでるっていう感じなのでしょうか?
そうですね。私、子ども同士の関係をつくるために音楽があって、その旅路に私がいると思っているんです。何かと、しんどい時、楽しい時に話す人の1人に私もいるよって、困った時に助けるために先生はいるからって、いつも伝えています。それを以前はなんかこう心もとない感じだったのが、彼との出来事のことがあってから、自信をもって言えるようになりました。

bridge learning主宰、一般社団法人 FutureEdu理事
人と人を深いところで繋げプロジェクトを生み出していく、現場大好き人間。NPO法人ETIC.で、社会起業家らの学び合いのコミュニティを企画運営する経験を活かし、日々挑戦する先生の意図を共に紡ぐ場作りをする。
どんな人も試行錯誤の中でまなび続ける力をもち自らの人生を切り拓いて欲しいと願うのは、鉄道会社で現場社員のリーダーシップを高める人事制度を作った時の経験から。Boston University教育大学院へ社会人留学して、教育の道へ転身した。一児の母。
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