8分で分かる!科学者の時間

子どもたちが科学者になりきって、自分の問いを立て探究する授業『科学者の時間』。自らの興味関心から自律的に実験観察に取り組み学びを深める授業です。

ブリッジラーニングのメンバーとも関係の深い井久保大介先生は、2017年からその実践に向き合い、子どもたちの探究力を育む理科の授業に取り組んでいます。「生徒たちに本物の科学に触れてほしい」という思いをエンジンに進み続ける井久保先生は、3人の理科教員仲間とともにコミュニティを立ち上げ、理科教員に『科学者の時間』を広めるチャレンジを続けています。

この度、井久保先生が『8分でわかる!科学者の時間』というフリーペーパー!を執筆されました。
学習者の主体性が発揮される学びの場をつくりたい先生方のコミュニティであるブリッジラーニングも、その趣旨に共感し、本記事にてご紹介させていただきます。

井久保 大介

東京都府中市立 府中第六中学校 理科教諭

生徒が問いをつくり、科学的に探究する理科の授業『科学者の時間』のプロジェクトメンバーの一人として実践。アメリカの探究的な理科のワークショップ型授業「探究理科」を紹介した、チャールズ・ピアス著、門倉正美、白鳥信義、山崎敬人、吉田新一郎訳『だれもが〈科学者〉になれる!: 探究力を育む理科の授業』(新評論)の翻訳協力。

科学者の時間は、アメリカで実践された『探究理科』とい う授業がもとになっています。『探究理科』の実践者であるチャールズ・R・ピアズが著した『Nurturing Inquiry: Real Science for the Elementary Classroom』という本では、「すべての子どもは科学者である」という信念の もと、生徒たちが本物の科学者のように探究活動を行う様子が描かれています。その授業を日本でも実践できるような形にアレンジしたものが『科学者の時間』です。

 学校の理科の授業で、どんな実験をやったか思い出してみ てください。教科書に載っている、次のページに結果がある実験を手順の通りやって、予想、実験、結果、考察の順にまとめる。こんな感じのものがほとんどではないでしょうか。
生徒が自分で不思議だなあとか、面白いなあと思ったことを確かめる時間はほとんどありません。例えるならそれは、教師がガイド役で生徒が乗客の「ガイド付きバスツアー」のような授業です。教師が決めた目的地まで一直線です。
 『科学者の時間』では、自分が身のまわりで不思議だなあとか面白いと思ったことから問いをつくり、それを実験して確かめ、発見したことを発表する、というサイクルを繰り返します(『科学者の時間』の探究サイクル)。もちろん、実験が失敗したり、思いも寄らない結果に辿り着いたりすることがたくさんあります。しかし、自ら考え、実験をやって確かめたことは、そのプロセスまるごと活きた知識として学びになります。その経験を通して生徒は(教師も)、本物の科学的な探究の手法を体得しながら、自ら知識を学びとっていくことの面白さに気づきます。

 授業は『科学者の時間』の探究サイクルに合わせて進みます。もちろん、このサイクルは教師が主導するのではなく、生徒が自分で探究することによって回すものです。だから実験がうまくいかず立ち止まったり、後戻りすることもあります。また、不思議なことや面白さに気が付くための時間も大切です。授業では、全員が同じ時間で同じサイクルを辿るのではく、それぞれのペースで探究を進めます。そして最後に探究発表会を行い、学んだことを共有します。

生徒は理科室に用意された材料や器具を自由に使って、自分の問いを確かめるための実験を考えてやります。ときには理科室から出て実験することもあります。興味の近い生徒同士がグループで実験したり、ひとりで黙々と実験している生徒もいます。また、授業の中では発表したり共有し たりする時間があり、生徒はそこで発見したことや学んだことを共有します。ときには実験以外にも、単元やテーマに関する本を読んだり、ネットを使って情報収集することもあります。それが次の実験のヒントになったり、問いをつくるきっかけになったりします。 探究発表会が近づくと、自分たちが探究してきたことをスライドやレポートにまとめたり、実際に実験して見せる準備をします。ここまで進めば、もう生徒たちは立派な科学者です!

教師は生徒の探究をサポートする役です。問いのつくり方や、実験方法の考え方など、探究のサイクルに合わせて生徒に学び方を教えます。さらに学び方以外にも、テーマや単元を学んでいく上で大切な考え方や基本的な知識を教える時間も確保します(「ミニレッスン」)。また、生徒に個別に必要なことを教えたり、生徒の探究の相談に乗ってアドバイスすることもあります(「カンファランス」)

学習指導要領や教科書に⺬されている内容については、ミニレッスンで取り上げたり、生徒の実験から得られた結果を⺬して教えます。ただ、テストで問われるような知識を丸暗記できたとしても、自らの経験や他の知識と結びついていなければ、活きた知識として実生活や社会に応用することは困難です。「科学者の時間」での科学的な探究を通して、知識は与えられるものではなくて、自ら知ろうとするプロセスそのものであることを体感してほしいと考えています。

「科学者の時間」では、教科書に載っていないような実験をしたり、教師でも結果が分からないような実験をする生徒が出てきます。頭ごなしに否定す るのではなく、まずはその生徒がどん なことに興味を持っているのかを聞い て、何を確かめたいのかを知ることが大切です。そして、それがどんな学びと繋がっているのかを生徒と一緒に考えましょう。すると、教科書の内容と思わぬ所で繋がっていたり、どう実験すればより確からしい結果が得られる かが分かったりします。 生徒と一緒に科学者になりきることが大切です。

投稿者: 日出間 真理子

bridge learning主宰、一般社団法人 FutureEdu理事 人と人を深いところで繋げプロジェクトを生み出していく、現場大好き人間。NPO法人ETIC.で、社会起業家らの学び合いのコミュニティを企画運営する経験を活かし、日々挑戦する先生の意図を共に紡ぐ場作りをする。 どんな人も試行錯誤の中でまなび続ける力をもち自らの人生を切り拓いて欲しいと願うのは、鉄道会社で現場社員のリーダーシップを高める人事制度を作った時の経験から。Boston University教育大学院へ社会人留学して、教育の道へ転身した。一児の母。

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