教師と学校外部の人間の協働。子どもたちが自由に探索し、プロセス自体も子どもたちがつくっていく学びに向き合う
~小学校6年生総合的な学習の時間における1年間の実践報告~
昨今、多様な経験を有する人材が、その専門性を活かして教師とともに学校現場に参画する例が増えており、文部科学省も学校現場と外部人材をつなぐ仕組みづくりの検討を行うなど 注目が集まっています。しかし、教師と外部人材が互いの多様性を活かしながら中長期にじっくりと生徒に向き合うような取組は、役割・チームビルディング・時間の確保など全てにおいて状況に応じた対応が必要で、日々忙しい学校現場では例が少ないのが現実です。
本稿でご紹介する、学校外部の人間が教師と協働で授業を作る上での3つの鍵「伴走しあう」「許容・保留しあう」「共創しあう」が、これから学校外部の人材と教育活動を共にしようとする全ての教員の方の手引きになると嬉しく思います。また、1年間という長期にわたった総合学習を進める中で、教師はどんなマインド変化を感じたのか、外部人材はどんな動機づけを持って取り組み続けたのか、同僚や学校にはどんな影響があったのかについても、ご紹介します。
1.はじめに
2022年5月より約1年間、森村学園6年桜組の総合学習の授業を、「学習者中心の教育実践プログラム」修了生の茂木智央先生(森村学園初等部)、荻上健太郎(東京学芸大学)、そしてブリッジラーニングの日出間の3人は、共に担ってきました。
その過程で分かったことを、まずは「学校教育における大人の協働のあり方や可能性」の観点から共同研究にまとめ、3月11日、日本教育支援協働学会で研究発表しました。
協働による子どもへの支援のあり方や可能性を主題に、授業実践の内容やそれを可能にした大人の協働的関係、協働を進める上でのICT活用等の工夫についてもご紹介します。
2.授業実践の概要
「しっかり学び、とことん遊べ」をモットーとし、学びにおいて子どもたちと教員の自由な発想を出発点とする森村学園初等部で、私達3人は、社会課題の自分事化と主権者教育を掛け合わせた授業実践と教育カリキュラムの開発に取り組んできました。

6年桜組(児童数39人)の総合的な学習の時間(60時間)では、社会課題の自分事化と自分事化した課題を社会に伝えるための映像制作に取り組んだ(動画コンテストであるKWN(キッド・ウィットネス・ニュース(KWN)日本コンテスト)に参加した)。 6年桜組(児童数39人)の総合的な学習の時間(60時間)では、社会課題の自分事化と自分事化した課題を社会に伝えるための映像制作に取り組みました。 まず、社会課題を自分事化する過程において、認定特定非営利活動法人ETIC.が作成、運営する社会課題解決中マップを用いた。これは、社会課題の解決に取り組む実践者の活動を知ることで、社会課題について関心をもつことをねらいとしたものである。その中で,社会や社会に生きる他者とのつながりを感じつつ、社会的課題をテーマとした映像の制作を通してより多くの人に伝えるという、学校の枠を超えた実社会と関連した学び(活動)に発展させていった。 そうした学びを進めていく上で,「映像制作チーム」と「ドキュメンタリーチーム」の二つのチームに分けることにした。映像制作チームは、動画コンテストであるKWNに提出する作品をつくるチームで、ドキュメンタリーチームは、映像制作チームが動画制作をする活動そのものを動画にしていくチームである。また、この2つのチームの中で「プロデューサー」や「動画編集」,「撮影」など、細かく役割をつくった。このように、チームを細分化し役割をつくることで、子どもたち一人ひとりが活動そのものに自分事として取り組むことができ、さらにその中で自己肯定感や自己有用感をもつことにもつながった。 授業1時間の中身としては,およそ以下の通りである。 ①導入:クラス全員で,それぞれのチームが本時に何を目標に取り組むのかを共有する。 ②展開:①でシェアしたことについて,それぞれのチームごとに活動する。 ③終末:②について、何をどこまで取り組んだのか、次回までに何をするのかを共有する。 |

こうした授業を繰り返していく中で、子どもたちは自由に探索し、プロセス自体も子どもたちがつくっていくことができました。そうした子どもたちの支えになったのは、大人3人の協働をベースにした子どもたちへの伴走する在り方だったと考えています。

3.大人の協働の概要
1年間、子どもたちが自由に探索しプロセス自体も自らつくっていく学びを実践する中では、中長期で予測し精緻に見通しを持つと言うよりは、予定通りではない状況に対し、対話の中で協働者3人がいくつもアイディアを出し合いながら進めていくことが必要でした。
<協働の主な取り組み> …2022年5月から2023年3月まで (1)授業において ・学校を訪問しての授業実践9回(オンライン2回を含む) ・保護者も参画しての制作発表会を2回 授業の進行補助(活動の全体説明、グループワーク時の補助、生徒への伴走支援等) 授業内容の記録補助(Googleドキュメントへの記録) (2)授業外において ・協働者3人でのミーティングを18回(オンライン及び対面) 授業の方向性の検討 授業の準備 授業の振り返り、意見交換 制作発表会等の保護者参画機会の企画 教師への壁打ちやメンタリング(価値観の共有や葛藤の相談等) |
大人の協働を進めるに際しては、ミーティング等によるコミュニケーションにおいて、具体的な議題だけではなく、それぞれの近況の共有や関心事項等に関する意見交換なども行うことで、協働を行うチームとしての関係構築にも取り組みました。
また、ZoomによるオンラインミーティングやGoogleドキュメント等によるオンライン共同作業、メッセンジャーアプリによる日常的なやり取り機会の創出など、ICTを積極的に活用することで、大人の協働における時間的・物理的な制約を乗り越える工夫を行いました。
4.3つの鍵
総合的な学習の時間を、子どもたちが自由に探索し、プロセス自体も自らつくっていく学びとするために私達は、教員・外部人材の双方が事象の奥に潜む可能性に意識を向けて対話をしながら、子どもたちの自由な探索や多様な感じ方・変化を意味づけ、支援してきました。そのプロセスを可能にした因子を振り返って分解すると、私たちの関係性・態度・行為の3つに分けられると考えます。

① 関係性
1つ目は、「可変的な関係で伴走」しあう関係性です。今回の授業づくりでは、外部人材が課題解決や計画立案支援のコンサルティング的な関わりをするのではなく、教員及び外部人材が、共に考え、共に授業をつくる伴走型で進めてきました。また、教員と外部人材という立場の違いはあるものの、立場の違いを多様性ととらえるとともに、お互いの役割を固定せず、状況の変化に応じて柔軟に役割を変えながら協働する可変的な関係を構築しながら進めました。
② 態度
2つ目は、正解のない状況を「許容・保留しあい」ながら対話するという態度です。
今回の実践では、子どもたちが自由に探索し、プロセス自体も自らつくっていく学びにするために、予定どおりではない状況が授業の中で生じることも多く、また、大人の協働においても、ミーティングでの対話の中で偶発的に生まれたアイデアにチャレンジすることもありました。このようなチャレンジを行う際には、自らの経験では捉えきれない筋書きに直面し、違和感を抱いたり、不確実な状態に不安を感じたりすることもありますが、その状況から解放されようと解を急がないようにするとともに、明確な解がない状態が続くことを許容・保留しあい、事象の奥に潜む可能性や中長期の未来に目を向けて、問いを問いのままにして持ち続け、対話を継続するという態度を重視しました。
③ 行為
3つ目は、「共創しあう」という行為です。今回の授業実践では、教員と外部人材が計画から実践、振返りまで横断的に協働するため、オンラインミーティング、Googleドキュメント等のICTを活用することで、時間的・物理的な制約を越えて、2週間〜1ヶ月半のサイクルで計画・実践・振返りを繰り返しながら、共に創ることができました。大人の協働においては、共に創るという行為までが伴うことで、行為を通じたコミット(責任感、達成感、自己有用感)が生まれ、協働の質が高まるとともに協働が推進しやすくなる好循環へとつながります。
以上の関係性・態度・行為の3つの因子が、学校教育における大人の協働が可能となり、より良い形で協働を実現、推進していく上で必要なものだと、私達は自らの実践で体感してきました。
5.教師の立場から

この1年間総合の授業を計画・展開していく上で、日出間さんと荻上さんのお二人がいてくれたことは,私にとって非常に重要なことでした。それは,教師としての在り方を問い直し続けられた(教師としての成長に寄与してくれた)からです。下の表内にあるように,「どんな発言もおもしろがる」「おぼろげな発言にも意味づけをする」「断定的ではない言い方をする」といったことを当たり前としているコミュニケーションを重ねる中で,「心理的安全性マインド」「対話マインド」「自由な発想マインド」になっていくことを実感しました。このことで,自分自身の授業や実践だけでなく,職場の同僚や子どもたちたちとの向き合い方・関わり方をよりよいものにしていきたいという想いがますます強くなっていき,学校文化を変えていけるという可能性を感じるまでに至りました。

6.協働者の立場から

3つの鍵の内容からも感じていただけるかもしれませんが、大人の協働による子どもへの支援では、何か特別な必要条件があると言うよりは、協働者それぞれが「どのように感じているか」の主観が大きな因子となっていました。
荻上健太郎さん(東京学芸大学)と日出間が1年間という長期に渡り、可変的なプロセスを茂木先生と共にすることができたのは、下記のような喜びや手応えを感じていたからだと考えています。
・目的意識の充足感
目指す社会像を形にしていく一歩を学校・教員と共に踏み出せた喜び
・自己有用感
専門性や経験よりも、“対話と応援”がはじめの一歩になるという手応え
・喜び
”先生がワクワクしている姿”を見ることができた嬉しさ
・冒険性
より良い未来への布石と感じての不確実な状態へのワクワク


今回の取り組みでは、授業改善や教育効果ではなく、大人の協働に焦点を当てた取り組みを実践しました。そして、私たち3人の取り組みから大人の協働の鍵となることは何か?について、協働者の立場、教師の立場、それぞれから整理を行うことができました。
今後に向けて注目したいことが、手応えと課題の(2)にも記載しますが、「大人の協働と教員・学校の成長」です。茂木先生の取り組みについて、同僚の先生の中にも関心を示す方が現れ、年度の後半は少しずつ会話をする機会が生まれてきたとのことでした。学校現場が向き合う課題が複雑化、多様化していく中で、「学校現場におけるチームづくりや、学校としての成長」はとても大切だと思っています。大人の協働が生み出す、他の教員や学校自体に与える効果・可能性について、引き続き着目していきたいと思います。
7.手応えと課題
最後に、1年間の実践を踏まえて、共同研究としての今後の展望を考えました。

(1) 大人の協働と保護者の巻き込み
保護者を大人の協働における協働者と位置づけ、発表する場だけに留まらない参画のあり方を模索したい。
(2) 大人の協働と教員・学校の成長
他の教員も巻き込みながら進めることで、教員の成長機会やチームづくり、学校の成長としての可能性についても模索したい。
(3) 大人の協働と子どもの変容
大人の協働が子どもの学びや変容に与える効果についても検証したい。
多様な経験を有する人材が、教師とともに授業を作る事例が増えていくことを願いながら、私たち自身もチャレンジを続け、分かったことを発信していきたいと思います。読者のみなさまもぜひ、事例や発見を私たちに教えてください。共に児童・生徒と学校のより良い未来を築いて参りましょう!

bridge learning主宰、一般社団法人 FutureEdu理事
人と人を深いところで繋げプロジェクトを生み出していく、現場大好き人間。NPO法人ETIC.で、社会起業家らの学び合いのコミュニティを企画運営する経験を活かし、日々挑戦する先生の意図を共に紡ぐ場作りをする。
どんな人も試行錯誤の中でまなび続ける力をもち自らの人生を切り拓いて欲しいと願うのは、鉄道会社で現場社員のリーダーシップを高める人事制度を作った時の経験から。Boston University教育大学院へ社会人留学して、教育の道へ転身した。一児の母。