日々挑戦する先生に、推薦者がこれを!と考えた一冊をご紹介するシリーズ「#先生の知的冒険への一冊」。
第5回は、聖学院中学校高等学校 国語科教諭で、ブリッジラーニング「学習者中心の教育実践プログラム」の2期に参加された、土屋遥一朗さんに選書していただきました。
自らも詩・短歌・小説などの文藝創作をされているつっちーさん(ブリッジラーニングでは互いを”呼ばれたい名前”で呼び合います)が「学習者中心の学びに関心のある先生方に向けてオススメしたい本」はどんな本か?私自身が好奇心がとまらず、お願いさせていただきました!さて、オススメの一冊は…!
『ぼく自身のノオト』
ヒュー・プレイサー (著), きたやま おさむ (翻訳)
土屋遥一朗さんからひとこと
中高一貫男子校という、ある意味では世界から浮いた離れ小島の、別の小宇宙みたようなところにいると、どうも妙な感覚になってくるようです。私が勤める学校は、独特の世界というか、どんなぼやっとしたやつでも「ま、いいんじゃん?」で受け入れてしまうような、そういう空気があります。
「なんでもないやつら」がその余白を生きていて、そこにいると、彼らは教師なんかいないほうが育つのではないか、とさえ思えてきます。
その小宇宙で、日ごろ考えます。それは、「いま、ここに生きている彼らに、必要なことはなにか?」ということです。われわれは彼らに、何ができるのか。なにか、できるのか。
シンプルですが、難解な問いです。〈教師のありかた〉や〈主体的な学び〉の類のさまざまな理論や技法・スキルは巷に溢れていて、それらを吸収すると「なんかいける」気もするのですが、いざ彼らの前に立ってみれば、彼らは武装解除の達人であるようです。
結局は、教師対生徒ではありつつも、人間としてそこに生きている若者たちとどうかかわるか、という問題であるようです。現在地の・この場所で生きる彼らの、人間としての存在をどう肯定し、彼ら自身が自己に象りを与えること。そのために背中に手を置くというのが、最近の感覚です。
では「彼ら」とはいったい誰なのか。その思索のために手にとった本の一冊が、『ぼく自身のノオト』です。理論書でも、虚構でもない、いわば「よくわからない」本です。しかし、その「よくわからなさ」こそが魅力です。そして、それこそが彼らの――結局自分は誰か、という彼ら自身の問いに対する答えとしても――本質なのかもしれない、と思わせられます。
土屋遥一朗さん プロフィール
聖学院中学校高等学校 国語科教諭
千葉県銚子市に生まれ、高校卒業までを過ごす。将来の夢らしきものはいろいろあったが、教員と公務員にだけはなりたくないと思っていた。
高校3年まで理系だった。天文学がやりたかったが、「数学は好きなのに数学に愛されない」と文転を決意。進学した早稲田大学で文学や哲学に出会い、思索と創作に明け暮れる。
大学院在学中、指導教授に導かれるまま福島県で農業体験を行い、農業にはまる。東京で宮沢賢治文学の研究と非常勤講師をしつつ、福島で夏は農業、冬には酒蔵で日本酒づくりを行っていた。3年間東京と福島を行き来する生活を送る中で、自分の軸は教育にあるのかもしれないと思い、講師をしていた現在の勤務校に落ち着く。
現在は聖学院中学校高等学校で高1・現代文、新クラス「グローバル・イノベーション・クラス」で哲学・ジャーナリズムゼミを担当。また、短歌結社「開耶」に所属し、創作と発表も行う。最近のキーワードは「まどい」「存在肯定」「象りを与える」「余白をひらく」。
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わたし日出間は、つっちーさんとお話しするといつも、あぁ、生徒ひとりひとりの「そのまま」をまっすぐに見つめ、まだもやもやとした「自分」に生徒自身が姿や形を与えていく過程に、寄り添っていらっしゃるんだなぁと感じます。ブリッジラーニングでは「横に座ることがアセスメント」というキーワードが繰り返し出てきますが、その語源の Assess = as (横に) + sedere (座る) の通りつっちーさんは、生徒の横に座って同じ方向を見ている存在なのかなと思います。生徒と教室でしゃべっていたらあっという間に時間が経ったなんてエピソードもよく聞いた気がしていて、人間が他者に関心や好奇心をもつその自然な心の動きの延長線上に、つっちーさんの生徒との日々があるのだなと感じていました。

またそうすることを通して、つっちーさん自身も、自分自身に偽りなく、時に儚くけれどまっすぐに立とうとしているような印象を持ちます。
そんな対等で平等な関係性を携えて教室に立つつっちーさんが選ぶ本、あなたもぜひ手にとられてみてはいかがでしょうか?
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「#先生の知的冒険への一冊」では、書物と対話し、自らを振り返り、様々な気付きを経て、さらなる知を求め、次の一歩を踏み出す。そんな風に本を通した十人十色の学び方で、知的冒険の扉がひとつひとつ開き、日々の実践を応援できると嬉しく思います。

bridge learning主宰、一般社団法人 FutureEdu理事
人と人を深いところで繋げプロジェクトを生み出していく、現場大好き人間。NPO法人ETIC.で、社会起業家らの学び合いのコミュニティを企画運営する経験を活かし、日々挑戦する先生の意図を共に紡ぐ場作りをする。
どんな人も試行錯誤の中でまなび続ける力をもち自らの人生を切り拓いて欲しいと願うのは、鉄道会社で現場社員のリーダーシップを高める人事制度を作った時の経験から。Boston University教育大学院へ社会人留学して、教育の道へ転身した。一児の母。